北見工業大学 無機材料・無機物質工学研究室

Inorganic Materials Chemistry Lab. &
Energy related Solid State Chemistry Lab

研究内容

RESEARCH
RESEARCH

液相合成による
高性能セラミックス
材料の開発

はじめに

セラミックス材料は一般的に原料粉末を焼成して作製しますが(固相法)、溶液からセラミックスを合成する液相法により、様々な電子デバイスなどで利用可能な高性能セラミックスを作製する事が出来ます。無機材料工学研究室では、この液相法の基礎研究をとおして、薄膜状の高性能セラミックス、粒子状のセラミックスなど様々な高性能セラミックスの開発を行っており、金属空気電池やリチウムイオン二次電池などで使用する高性能材料の合成に役立てています。
また無機材料工学研究室では、セラミックスナノ粒子表面への異なるセラミックス材料のコーティングに関する研究も積極的に行っており、複数の企業と共同研究することで、この技術を様々な分野に応用することを試みていますが、このような高性能セラミックス合成には、液相合成の基礎研究が欠かせません。そのため本研究室では、このような高性能セラミックス合成が可能な液相合成手法として金属アルコキシド法(ゾルゲル法)に着目して、有機化学と無機化学の両方を用いた基礎研究を実施しています。

液相合成による
高性能材料の開発

液相合成の中でも特に金属アルコキシド法は、前駆体となる前駆体溶液中の分子設計が非常に重要であることが知られています。そのため同じ材料を液相合成する場合でも、前駆体溶液中の分子設計を正確に実施する場合としない場合では、得られる材料の特性が大きく異なるため、分子設計は非常に重要です。
1.セラミックス前駆体溶液の
作製(溶液化学)
セラミックス前駆体溶液の作製(溶液化学)
例えば、ABOという二つの金属成分を持つ複合金属セラミックス材料を液相合成する際、前駆体溶液中の化学反応を制御して、MA-O-MBという二つの金属元素間に酸素が存在する分子設計を施した場合と、施していない場合では、焼成後に同じ結晶性セラミックス材料が合成出来たとしても、結晶化温度が全く異なり、これに伴い結晶子径の大きさが変化したり、薄膜セラミックスの場合では配向性(結晶が向く方向)が異なり、特性が大きく異なります。そのため、このような結合をいかにして化学反応により形成するのか?という基礎研究は非常に重要です。

液相合成による薄膜作製

また前述した前駆体溶液を用いて薄膜セラミックスを作製する場合では、どのようにして薄膜を作製するかによっても、得られるセラミックスの特性が大きく変化する事があります。例えばディップコーティングでは、溶液中に基板を浸し、基板を引き上げる事で、引き上げの際のせん断応力により基板上にセラミックス薄膜が形成します。これに対してスピンコーティングでは、基板を回転させ前駆体溶液を遠心力により広げることで、セラミックス薄膜が形成します。どちらの手法でもセラミックス薄膜は形成できますが、そのメカニズムが異なるため、例えば膜厚を制御する際に必要とされる前駆体溶液の特性は異なり、それぞれの手法に応じた前駆体溶液の分子設計が必要になります。また無機材料工学研究室では、これまでに(K,Na)NbO3-(Bi,Na)ZrO3やPb(Mg.Nb)O3-PbTiO3など非常に多成分なセラミックス材料薄膜の液相合成にも成功しており、このような多成分系材料のナノレベルで均質な前駆体溶液の設計ノウハウを持っています。
液相合成による薄膜作製
液相合成による薄膜作製

機能性薄膜作製への応用

前述したような多成分系材料の均質な前駆体溶液の分子設計は、実際の薄膜の微構造や結晶配向性にも大きく影響し、同じ材料であっても全く電気特性が異なる事を、私達の研究室では報告しています。液相合成によりセラミックス薄膜を作製する際、そのメカニズムは次のように説明出来ます。
はじめに前駆体溶液を基板上に製膜をした段階では、前駆体溶液はゾルの状態ですが、この液相膜を乾燥させる段階で、薄膜はゲル化しゲル薄膜となります。その後、金属アルコキシドを前駆体として用いている場合は、アルコキシド基を熱分解させる事で、前駆体成分のみで構成されたアモルファス薄膜となりますが、この段階では最終目的である結晶性薄膜ではありません。この後焼成により結晶化させるわけですが、このアモルファス状態でそれぞれの金属成分が酸素を介して結合している場合と、結合していない場合では、結晶化させる際に必要な熱処理温度が大きく異なります。そのため、より低温で結晶化が可能となるような前駆体の分子設計についても、私達の研究室では手がけています。
同じ材料を、分子設計した前駆体溶液と、していない前駆体溶液を用いて作製した場合の微構造の違いを示していますが、前駆体溶液内の分子構造が異なるだけで、これだけ異なる微構造となることが分かっています。すなわち、現在私達が使用している電子デバイスで利用可能な高性能セラミックス材料を作製する際、化学反応の制御がこれだけの効果を発揮することを、この結果は示しています。
機能性薄膜作製への応用

機能性ナノ粒子作製への応用

また無機材料工学研究室では、薄膜セラミックスだけではなく、セラミックスナノ粒子やセラミックスナノコーティングについても、液相合成により達成しています。ナノ粒子セラミックスを作製する場合は、前駆体溶液中で均一核生成により一次粒子を合成しますが、多成分系セラミックス材料のナノ粒子を合成する際は、前駆体溶液中でナノレベルでの均質性が求められ、これらは化学反応制御により達成されます。
またセラミックスナノコーティングを粒子に対して実施する場合は、ナノ粒子合成の時とは異なり、不均一核生成を粒子表面で実施し、目的とするセラミックス材料を粒子表面に析出させます。この場合でも、前駆体の分子設計により、析出させるセラミックス材料の構造が変化するため、それぞれの目的に応じた前駆体溶液の分子設計が必要となることを、私達の研究室では示してきました。すなわち、セラミックスナノ粒子やコーティングを実施する場合も、薄膜と同様に前駆体溶液の分子設計が非常に重要となります。
液相合成による薄膜作製

今後の展開

ここまで紹介したように、無機材料工学研究室では、液相合成の基礎研究を通して様々なセラミックス材料の合成に成功してきました。またその成果は、企業との協同研究を経て、電子材料だけには留まらない、様々なデバイスへの応用に利用されてきました。液相合成は化学反応に基づく分子設計が重要ですが、現在でも課題が多く、全ての材料に適用できるような理論構築には至っていません。そのため無機材料工学研究室では、これからも様々な材料の液相合成に挑戦し、最終的にその成果を取り纏め、金属アルコキシド法における材料設計の指針作りに取り組みたいと考えています。
共同研究先
東洋アルミニウム株式会社
株式会社リコー
サムスン電機
H社
M社
助成金
2010年度
独立行政法人科学技術振興機構 (A-STEP 探索タイプ)
2011年度
日本板硝子研究助成金
2013年度
ホソカワミクロン工学振興財団研究助成金
2013-14年度
日揮・実吉奨学会研究助成金
2015年度
スズキ財団科学技術研究助成
2015-17年度
科研費若手(B) 15K17894
2020-21年度
公益財団法人 前川報恩会研究助成
2020-2022年
科研費基盤C 20K05657
成果
特許:特許6590236号 大野智也 松田剛 杉浦知幸
ペロブスカイト型複合酸化物からなる膜を形成する方法、ペロブスカイト型複合酸化
物被覆粒子、触媒、電極及び誘電体材料
解説記事

大野智也 “液相法によるナノ粒子表面への金属酸化物のナノコーティング” 
まてりあ 57(10) (2018) pp.471-478
大野智也 松田剛 “液相法による高表面積を有するペロブスカイト触媒の開発” 粉体工学会誌 53 (2016) pp.436-441

鈴木久男 大野智也 ”ゾルーゲル法の基礎と強誘電体薄膜への応用” 「ウェットプロセスによる精密薄膜コーティング技術」 ㈱技術情報協会 2014年8月29日 発刊

研究論文

T. Ohno, K. Fukumitsu, T. Honda, A. Sakamoto, S. Tanaka, S. Hirai, T. Matsuda, N. Sakamoto and H. Suzuki “Piezoelectric properties of a near strain-free lead zirconate titanate thin films deposited on a Si substrate” Mater. Lett. 239 (2019) pp.584-589.

T. Ohno, S. Ochibe, H. Wachi, S. Hirai, T. Arai, N. Sakamoto, H. Suzuki and T. Matsuda,
“Preparation of metal catalyst component doped perovskite catalyst particle for steam reforming process by chemical solution deposition with partial reduction” Adv. Powder Technol.
29 (2018) pp.584-589

T. Ohno, K. Fukumitsu, T. Honda, S. Hirai, T. Arai, N. Sakamoto, N. Wakiya, H. Suzuki and T. Matsuda, “Orientation control of SrRuO3 thin film on a Si substrate by chemical solution deposition for an electrode of lead zirconate titanate thin films” Mater. Lett. 181 (2016) pp.74-77

T. Ohno, T. Masuda, S. Ochibe, S. Hirai, H. Suzuki, T. Arai, N. Sakamoto, N. Wakiya and T. Matsuda, “Effect of the reduction condition on the catalytic activity for steam reforming process using Ni doped LaAlO3 nano-particles” Adv. Powder Technol., 27 (2016) pp.179-183

T. Ohno, H. Yanagida, K. Maekawa, T. Arai, N. Sakamoto, N. Wakiya, H. Suzuki, S. Satoh and T, Matsuda “Stress engineering for the design of morphotropic phase boundary in piezoelectric material” Thin Solid Films 585(2015) pp.91-94

など