研究内容

難カチオン重合性基を有するビニルエーテルのリビングカチオン重合

重合活性種がカルボカチオンであるカチオン重合は、プロトン酸やルイス酸を開始剤に用いるため、カルボカチオンと反応する官能基や開始剤で分解する構造がモノマー中に存在すると、分子量や構造を制御した重合(リビング重合)が起こらないだけでなく、高分子が全く得られない。このため硫黄原子や窒素原子を構造中に有するモノマーのカチオン重合やリビングカチオン重合はほとんど研究されていません。しかし、硫黄原子を有するポリマーは高屈折レンズや吸着材料など新たな機能材料としての高い可能性があります。そこで我々の研究室では、様々な硫黄官能基を有するビニルエーテルのカチオン重合の検討を行っています。

下図に示すスルフィドを有するビニルエーテル(1)の重合では、生成したカルボカチオンにアルキルスルフィドが求核攻撃し環状スルホニウムを生成して重合を停止してしまう。

一方で、フェニル基を置換したスルフィドビニルエーテル(2)においてはリビング的にカチオン重合が進行した。これは2の重合においては右図に示すような環員数の大きい環状スルホニウムが生成しにくいためスルホニウムの生成による重合の停止が起こらなかったと考えられる。このようにカチオン重合が困難な官能基が含まれていても分子構造を工夫することで重合が可能であることが明らかとなりました。

現在、我々は様々な難カチオン重合性基を有するモノマーのリビングカチオン重合を検討しています。

難カチオン重合性基を有するビニルエーテルのリビングカチオン重合

ポリフェニルアセチレンのSCAT反応を利用した超分子自立膜の調製とその機能化

我々は図左に示すような2つの水酸基によってタイトならせん構造が固定化されたポリフェニルアセチレン類は光照射すると高選択的に芳香環化(環化三量化)するSCAT反応(収率98%)を見つけました。

図に示すように高分子量体(Mw=6.3x106)のポリフェニルアセチレンに光を当てるだけで低分子量化し、図の右に示す1,3,5-トリフェニルベンゼンが生成します。

ポリフェニルアセチレンのSCAT反応を利用した超分子自立膜の調製と その機能化

また、この反応を応用して超分子自立膜が調製できることを見いだし,様々な応用研究を行っています。一般的には、低分子の集合体である超分子を合成するには、低分子を規則的に集合・配列する様々な工夫が必要で(ボトムアップ法)、低分子溶液をただ乾かしても膜はできません。また、膜ができても非常に脆く自立性のある膜はほとんどできません。

我々は、まずSCAT反応が可能ならせんポリフェニルアセチレンから高分子自立膜を調製し、その膜にSCATを行うことで環化三量化を行い、超分子自立膜を調製しました(トップダウン法)。

超分子自立幕の調整方法 トップダウン法
超分子自立幕の調整方法 ボトムアップ法
超分子自立幕の調整方法

高分子はその特徴的な長い分子鎖の絡み合いによって、容易に大きな実用的なサイズの丈夫な膜が調製できます。この膜をそのまま環化三量化することで容易に大きな超分子膜ができます。また、写真に示すように低分子の集合体にもかかわらずピンセットで掴んでも壊れない自立膜となります。

現在、我々は原料であるモノマーの構造を検討することで高分子の機能化、さらに最終的な超分子自立膜の機能化を行い、高分子自立膜、超分子自立膜の応用化を検討しています。

高分子材料を利用した玉ねぎ育苗用の固化培土の開発

我々のグループでは高分子材料を用いて北海道内(オホーツク地域)の農業、漁業など一次産業を高効率化・活性化することを目指して研究を進めています。

例えば、北見地域で盛んなタマネギ栽培は下のようなポットで育苗して機械移植されますが、培土の強度が十分でないと植え付けがうまくいかず手で植え直す必要があり、高齢化や人手不足が起こっている中で一つの課題です。これを解決するため、我々は新しい高分子固化剤やシステムを開発しています。

市販製品で機械移植された畑の苗の状態 従来の玉ねぎ用培土

種子のポリマーコーティングによる冬期直播栽培方法の開発

直播栽培を目的に種子を高分子でコーティングする事で発芽時期をコントロールして、農作業時期の分散化を目指す 

種子を分解性の疎水性高分子でコーティングし、冬期にはコーティングで種子が保護され、春にコーティングが溶けて出芽が可能となる。

これにより農作業者が比較的忙しくない冬期に播種が可能となり、労働力・農作業時期の分散化が可能となる。

農業者人口の不足やそれに伴う人件費の増加といった問題を解決する、方法として期待される。