北見工業大学 地球環境工学科
先端材料物質工学コース
電子材料研究室

研究内容

研究室の概要

「薄い」という特徴を有する薄膜材料は、身の回りで電子機器を始め広く利用されています。私たちは、ナノ構造・ナノレイヤの活用による材料の高機能化・省エネルギー化を目指して研究・開発を行っています。例えば全金属材料の中で最も低抵抗率・高反射率という優れた特徴を有する銀薄膜に着目し、ナノメートルスケールでの表界面層の導入により、加熱や高湿度環境での凝集を抑制し、銀本来の電気的光学的性質を維持できる高安定銀薄膜を開発しています。また、極めて薄い銀薄膜は建物の省エネルギー化に有効なエコガラスにおいても重要な役割を果たしています。 一方、ナノ構造・ナノレイヤでは、通常の大きさの物体とは異なり、ナノスケールに特有の光物性・機能性が発現します。多層ナノレイヤを利用した有機EL素子の高性能化の研究や、パターニングした金属ナノ材料のプラズモン発光増幅現象を利用した、発光デバイスの高効率化の研究も行っています。

研究室の研究テーマ

川村 みどり 教授

黒い金属(ブラックメタル)膜の作製と応用

普通の金属膜は緻密な構造をもち、光を反射しますが、あえてスカスカな(ポーラス)構造に作ると光を吸収する黒い膜ができます。高表面積な構造を利用してガスセンサへの応用を検討しています。私達は、真空蒸着装置やスパッタリング装置を用いて、作製条件を大きく変えることにより、金、銀、アルミニウム等のブラック(ポーラス)膜を作製しています。写真は通常の銀薄膜とポーラスなB-Ag膜です。

表界面ナノレイヤの積層による高安定銀薄膜の作製

銀薄膜は、高電気伝導率・高反射率等の特徴により、電極や反射ミラー等として適しています。しかし、単層のままでは安定性に課題があり、例えば加熱により凝集現象が生じ、物性が劣化します。その克服のために、私達は表面ナノレイヤ、界面ナノレイヤを導入することで、耐熱凝集性に優れた銀薄膜を開発しました。ナノレイヤとして適した物質及びその理由も解明しています。

表界面ナノレイヤの積層による高安定銀薄膜の作製 画像

ナノレイヤの積層による高性能省エネルギー薄膜の作製

窓ガラスを通しての熱の流入・損失を低減するために機能性薄膜がコーティングされたエコガラス(Low-E複層ガラス)が注目されています。これを活用すると、夏の冷房・冬の暖房がより効率的になります。ここで極薄銀薄膜が重要な役割を担っていますが、薄い膜を高品質に作るためには様々な工夫が必要です。私達は、ナノレイヤを活用した膜の積み重ねによって、より高い省エネルギー効果の実現を目指しています。

界面ナノレイヤを活用した高性能薄膜の作製 画像

Low-E複層ガラス 断熱タイプ
(YKKAP HPより転載)

スパッタリング法における適切な貴ガス選択による結晶成長

産業界でも成膜手法として幅広く利用されているスパッタリング法では、金属薄膜をアルゴンプラズマ中で成膜します。アルゴンイオンが金属原料の表面の原子をたたき出して基板に金属原子が堆積する仕組みです。しかし、同時に、アルゴンもわずかに膜中に取り込まれる現象が知られています。私達は、金属に応じてより適切な貴ガスを選択し、例えば、銀薄膜をクリプトンプラズマ中で成膜すると、膜中の結晶成長がより促進され、優れた電気特性の膜が得られることを確認しました。膜中の貴ガス取り込みの有無も明らかにしています。図は、アルゴン及びクリプトンガスを用いて作製した銀薄膜(膜厚一定)のXRDパターンです。

木場 隆之 准教授

有機EL素子を高性能化する機能性多層薄膜の開発

スマートフォンやテレビ等のディスプレイ用途として有機EL素子が再び注目を集め、需要が増しています。その応用が進む中で、一般に有機発光材料は色純度が低く、水・湿気に弱く劣化が早いという問題点が存在します。これらが解決できるような機能を併せ持つ、金属・誘電体ハイブリッド多層薄膜を素子上に成膜し、発光スペクトルの尖鋭化、水蒸気・酸素に対する封止性能を併せ持つ新たな構造を提案し、高性能化を目指しています。

有機EL素子を高性能化する機能性多層薄膜の開発 画像

簡便なリソグラフィ技術を利用した金属ナノ構造の作製とその発光増幅効果

金属表面やナノ構造における自由電子はバルクとは異なる協同的振動をしており、これまでに無いユニークな光物性・機能性が発現します。特に金属の微細加工により作製されたナノ構造では、様々な波長の光を対象とした効率の良い光取り出しや光電場増強効果が期待できます。ポリスチレンビーズ配列をテンプレートとしたナノスフィアリソグラフィを用いて金属ナノ構造を作製し、発光増強現象についての検証を行っています。

金属-半導体ハイブリッドナノ構造を利用した発光デバイスの高効率化

前述の金属ナノ構造を発光デバイスに組み込み、その局在表面プラズモンによる発光効率の改善を目指しています。発光波長に合わせたナノ構造の設計や、電流注入を阻害せずに発光増幅効果が維持・発現する構造最適化を行っています。また、ピコ(10-12)秒~ナノ(10-9)秒という僅かな時間の間に起こる発光現象のリアルタイム計測(=時間分解レーザー分光)により、デバイス中での発光増幅機構の解明を進めています。

金属-半導体ハイブリッドナノ構造を利用した発光デバイスの高効率化 画像