研究内容

阿部 教授 / 川村 教授 / 金 准教授 / 木場 助教

研究紹介 (阿部)

反応性スパッタ法による化合物薄膜形成プロセスの研究

金属ターゲットを酸素や窒素ガス中でスパッタする反応性スパッタ法は、化合物薄膜の作製に広く利用されています。しかし、ターゲット表面が金属状態から化合物状態に変化する臨界条件で、薄膜の組成や電気・光学特性が急激に変化します。この臨界条件を明らかにして、高品質薄膜を作製するため、化合物薄膜形成プロセスを研究しています。

エレクトロクロミック素子の研究

電気化学的な酸化還元反応によって色変化するエレクトロクロミック(EC)素子は、省エネルギー効果の高いスマートウインドウへの応用が期待されています。そこで、還元着色型WO3と参加着色型のNiOOHおよびCo3O4を組み合わせた相補型デバイス実現のため、薄膜作製条件および電解質の選択について検討しています。

着脱色させた水酸化物膜の例

プロトン伝導性酸化物膜材料の研究

エレクトロクロミックデバイス及び薄膜エネルギーデバイス用の固体電解質への応用をめざし、プロトン伝導性酸化物薄膜材料について研究しています。特にH2Oガスを用いた反応性スパッタ法により、水和Ta2O5及び水和ZrO2薄膜を作製し、そのプロトン伝導性をACインピーダンス法により解析するとともに、膜中水素量との関連を検討しています。

スパッタリング法による有機薄膜の研究

高撥水性薄膜材料への応用をめざし、スパッタリング法によるフルオロカーボン薄膜の作製について検討を行っています。

研究紹介 (川村)

ナノレイヤの活用による薄膜の高機能化・高安定化に着目し、低炭素社会の実現に役立つ機能性材料の開発を行っています。

表界面ナノレイヤの積層による銀薄膜の凝集抑制

凝集した銀薄膜(A)と
開発した高安定性膜(B)

全金属材料の中で、最も低抵抗、高反射率、という優れた特徴を有する銀薄膜は、各種電子デバイス類において、電極材料、反射ミラーとしての用途が有望です。しかし、加熱により凝集現象が生じて、それらの物性が劣化するという問題があります。その克服のために、表面ナノレイヤ、界面ナノレイヤを導入した構造とすることで、薄層化しても耐熱凝集性に優れ、また銀本来の物性を維持できる薄膜を開発しています。ナノレイヤとして適した物質及びその理由を解明しています。

有機単分子膜を用いての極薄銀薄膜の環境耐性の向上

地球規模で進行している温暖化に歯止めをかけるため、低炭素社会実現のための努力が必須です。現在日本の家庭でのエネルギー消費において、冷暖房が占める割合は約三割にも達しています。そこで注目されているのが、冷房暖房に要するエネルギーを大幅に抑制することができるエコガラス(複層Low-E)です。 私達は、銀と強く結合するチオール基を有する有機分子膜を用いて、有機分子系ナノ表界面層を有する銀薄膜の環境耐性及び光学特性を調査し、エコガラス用コーティング材料の開発を目指しています。

酸化物/銀/酸化物積層構造をとる省資源・省エネルギー型透明導電膜の開発

ディスプレイ・太陽電池に必要不可欠な透明導電膜としは、現在ITOが主流ですが、デバイスの大面積化を見据えて更なる低抵抗化が要求されています。また、省・脱インジウムの材料開発が求められています。 私達は、極薄銀薄膜を酸化物内部に挿入した積層構造の透明導電膜を作製しています。膜の構造や作製プロセスの最適化により、電気的・光学的特性に優れた膜が得られています。積層構造にすることにより、シート抵抗の大幅な低下、インジウム使用量の削減が達成できています。

有機EL素子の高性能化のための材料開発

有機EL素子の発光の様子

家庭でのエネルギー消費において、テレビ・照明器具が占める割合は冷暖房と同程度に達しています。有機エレクトロルミネッセンス(EL)は、有機薄膜に電圧を印加することで、発光する現象で、次世代薄型ディスプレイ・照明として期待されているので、低駆動電圧化、発光効率の向上は重要です。 私達は、ホール注入層材料や、陽極材料の研究により、有機EL素子の高性能化を進めています。

研究紹介 (金)

有機系太陽電池(バルク-へテロ接合型有機薄膜太陽電地、色素増感太陽電池)の作製及び特性評価

有機系太陽電池の研究

安心・安全と環境の両面から、主要な再生エネルギー資源として太陽光に大きな期待が寄せられている。現在、一般家庭への普及も始まっている無機系シリコン太陽電池の発電コストは、シリコン原料の価格が割高であり、装置設置場所の限界により、さらなる太陽電池の低コスト化や製品の柔軟性が不可欠である。

1.バルク-へテロ接合型有機薄膜太陽電池

バルク-へテロ接合型有機薄膜太陽電池は、比較的安価な原料を使用し、上記の障害を克服する有望な候補の一つとして注目されている。バルク-へテロ接合型有機薄膜太陽電池は、電極間に太陽光を吸収してキャリア生成を行う活性層を有し、その両側にキャリア輸送を促進させるバッファ層を持つ構造である。高酸性度・腐食性・吸水性を持つ従来の導電性ポリマー陽極バッファ層の代わりに化学的に安定な酸化物薄膜を用いることで太陽電池の性能向上を目指しています。

2.色素増感太陽電池

酸化チタン表面にルテニウム色素を吸着させ作製した光電極を白金のような対極との間を電解液で満たすという簡単な素子構造である色素増感太陽電池は有機系太陽電池の中で最も変換効率が高く、しかも軽量で、フレキシブルな素子を作製できるため、将来的に様々な分野への応用が生まれることが期待されています。さらなる効率向上のために、様々な形態を有する酸化物ナノ構造を有する色素増感太陽電池の研究開発を行っています

研究紹介 (木場)

金属ナノ構造を利用した高効率発光デバイスの開発、半導体量子構造の光学特性評価

金属-半導体ハイブリッドナノ構造を利用したプラズモン発光増幅

ナノスフィアリソグラフィの概要

金属表面での自由電子はバルクとは異なる協同的振動(=プラズモン)をしており、このプラズモンが電磁波と相互作用することによって、これまでに無いユニークな光物性・機能性が発現します。特に金属の微細加工により作製されたナノ構造を使うことで、様々な波長の光とのマッチングが可能となるため、効率の良い光取り出しや光電場増強効果による、発光デバイスや太陽電池の高効率化を目指しています。

現在、ナノ構造の製法としては、サイズの揃ったポリスチレンビーズの二次元結晶をテンプレートとした「ナノスフィアリソグラフィ」(右図参照)を用いて、銀のナノパターンを作製し、有機ELの発光材料や半導体量子井戸との組み合わせによる発光増強現象についての検証やその機構の解明を進めています。

半導体量子井戸、量子ドットの光学特性評価

GaAs量子ディスクを含んだ
ナノピラーのSEM像

半導体をナノスケールにまで微細加工すると、その中の電子などのキャリアは通常のバルクの状態とは異なる振る舞いをします。特に「量子閉じ込め効果」によって取りうる状態がエネルギー的に飛び飛びの状態になる事(= 準位の離散化)を応用して、波長が温度によって揺らがない(= 冷却の必要が無い)レーザーダイオードなどの応用が期待できます。本研究室では、これら量子的な性質を持つ半導体ナノ構造の光学的特性を調べる研究をしています。